【馬と人の関係】アマデウスが教えてくれたこと(2019.10.2)

平成8年(1996年)夏。千葉県九十九里浜の海岸。

いつもように相棒の白馬アマデウス(メス11歳)と共に、九十九里浜の波打ち際を外乗していた時のこと。

海遊びに来ていた20人くらいの小学生たちに囲まれたことがありました。

馬の視界は350度、真後ろの10度は死角です。ずかずかと死角に侵入すると、後足で蹴られることもあり、とても危険な状態です。

それなのに…、子どもたちは「お馬さんのしっぽ、なが~い。」、「背がたか~い。」

「危ないから馬から離れて!」。馬上の私の心配などおかまいなしにアマデウスの胴体に触ったり、しっぽを触ったりしています。

アマデウスがいやがって子どもを蹴ったり、動いた拍子に子どもの足を踏んだりしたら、子どもたちは大けがではすみません。

私はさっと馬を降りて、子どもたちに言いました。

「お馬さんに乗ってみる?」

いっそのこと、アマデウスに乗せて引馬をしてあげた方が順番待ちの秩序が生まれると思ったのです。下手に離れて、子どもたちが後を追ってきたらもっと危ないですから。

子どもたちは大喜び。自然に一か所に集まって、自分の番を待っています。

馬上では神妙な顔をする子ども、笑う子ども、遠くを見つめる子ども…、反応は様々でした。

最後の順番の子どもをアマデウスの背中から降ろしたときに、年配の女性が走って来ました。

「すみません。子どもたちがご迷惑をお掛けしました!」と言いつつ、子どもたちの集団の中に入っていき、子どもたちをたしなめるその女性。

「先生、お馬さんに乗ったよ!」嬉しそうに報告する子どもたち。

(この人は先生だったのか。)

その先生が私に言った言葉が、「本当にご迷惑をおかけしてすみません。でも、子どもたちのこんなにキラキラ輝く目は、養護教諭を30年やってきて初めて見ました。本当にありがとうございました!」

先生のお言葉とその目、子どもたちの目に、私はなぜだか胸が熱くなり、「先生も乗ってみますか?」とお誘いし、先生もアマデウスに乗せて、引馬をしてさし上げました。

「わっ」とか「きゃっ」とか、先生が驚く様子を見ていた子どもたちは大はしゃぎ!!

やがて馬上から見る風景にみとれて、静かに馬の揺れを感じていらっしゃる先生を見て、おとなしくなる子どもたち…。

そういえばアマデウスは…
はじめから私の心配など気にもとめていない様子で、子どもたちとのかかわりを楽しんでいたような…。

このとき、私は気づいたのです。これが馬が持つ本当の力だと。
走ったり、人を乗せたり、馬車を引いたりだけではない。
馬の本当の力は、人を「癒す」ことだと。

アマデウスが教えてくれた大切なこと。

あの日から20年以上経過して、ホースハーモニーが生まれるきっかけになった出来事でした。

(※ホースハーモニーという命名は明星大学教育学部星山麻木教授)

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