体内環境という海

私たちが今、ここに生きていることの奇跡


目次

体内環境という海
1 体内環境とは
2 細胞の中の海
3 細胞の外の海

体内環境という海

第1項では、私たちの皮膚の外側にある海について、地球の始まりまでさかのぼりました。
この項では、私たちの皮膚の内側にある海について考えてみます。


1 体内環境とは

私たちの体は、270種類、60兆個の細胞からできています。
その全細胞の内外に満たされており、そして体中をくまなく流れる液体。
私たちの体重の70%を占める液体のことを体内環境といいます。

 

この液体は、
細胞の中にあるときは「細胞内液(細胞質基質)」
細胞と細胞の隙間にあるときは「組織液」②
血管の中を流れているときは「血しょう」③
リンパ管の中を流れているときは「リンパ液」④

とそれぞれ呼び名が変わります。

イメージ的には、血とかリンパ液とかの方が多いような気がしますが、一つ一つの細胞の中にある細胞内液(細胞質基質)の合計が、体液の60%を占めるということが意外が気がします。

そして、細胞と細胞の間にある組織液を含めると90%を占めるというのもすごいことですね。
人の体の細胞は本当に、海の中に漂っているというのもうなずけます。

やはり、生命の誕生は海から。
陸上に上がっても自己の体内に海の環境を作っているからこそ、生きていられるのかも知れませんね。
なんと言っても、生命の進化のほとんど全てを海ですごしていたのですから。

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2 細胞の中の海

体内環境の中でも、その総量が体液の60%をしめるのが、細胞内液です。
人体には270種類、60兆個の細胞があり、ヒトの細胞の大きさは直径約0.02ミリ。
小指の第1関節から先っぽに約50万個の細胞が入っていることになるんですよ。

そんな小さな小さな細胞一つ一つの中に入っている体液を細胞内液、細胞質基質と言います。

 

さて、私たちの体を構築している60兆個の全細胞の内部はどのような環境なのでしょうか。

直径0.02ミリの小さな細胞の中には、様々な役割をもったさらに小さな細胞小器官(細胞の中にいる生き物)たちが存在し、下図に示す役割を果たしています。

大切なことは、
0.02ミリの小さな細胞の一つ一つの細胞の中で、今、この瞬間も様々な細胞小器官たちが、材料を受け取り、大切な物質を作って、他の細胞小器官に渡す。みんなが働きやすい環境を調え、保つ、つまり恒常性を維持する様々な代謝や細胞分裂などの活動を休むことなく行っているということ。
生体のすみからすみまで、一つ残らず、くまなく行われる、その営みの上に、私たちの今現在の生があるということ。

そして、これらの生命活動が営まれる環境は、細胞膜に守られた細胞質基質というミネラル水溶液の海の中で行われているということです。

 

上の図からもわかるように、細胞内液である細胞質基質の組成は、すべて海水に含まれている成分からできているんですよ。

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3 細胞の外の海

270種類、60兆個もの細胞は、細胞質基質という海の中で、様々な細胞小器官たちが一生懸命働いていました。では、その一つ一つの細胞の外側はどうなのでしょうか。

細胞外液は、
細胞と細胞の隙間にあるときは「組織液」
血管の中を流れているときは「血しょう」
リンパ管の中を流れているときは「リンパ液」

それぞれ別々な液体ではなく、その存在する場所によって呼び名が異なります。

まず、組織液。

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生体には、私たちの皮膚の外の環境の変化と、皮膚より内側、つまり体の内部の環境変化に対し、生体を安定した恒常的な状態に保とうとする「恒常性」という、命そのものといっていい仕組みがあります。

恒常性は、神経系、内分泌系、そして免疫系の複雑精緻な相互作用によって維持されているのですが、その「相互作用の場」となっているのが組織液です。

組織液には、毛細血管からにじみ出た栄養分や、細胞から出た老廃物が混在していますが、それらが悪影響を及ぼすことなく、体液の電解質、浸透圧、pH、温度、血圧、血糖などの恒常性が維持されています。

なぜ組織液の中に、体にとって必要な栄養分と老廃物が混在していても、全体として体に害を及ぼすことがないのでしょうか。不思議ですね。生体の恒常性が維持できなくなると病気になってしまうのに。

ただ、内部環境としての組織液の組成が、原始地球の海水塩分濃度に最も近いというのが、なんとなく「やっぱり、そうなのかな。」と思わせてくれます。
だって、海に生物が誕生してから40億年の時を経て、私たちの今の体があるのですから。

 

血しょうとリンパ液はどうでしょう。

血しょうは、金属イオン、電解質、各種栄養素など、細胞の働きに必須な栄養分を含んでいて、これらの栄養分を体のすみずみまでくまなく運び、細胞の代謝で生じた老廃物を運び去るはたらきをします。

リンパ液は、リンパ液に入った来た細菌や異物の除去と、免疫に関与する物質を作って全身に送るという二つの大きな役目があります。

ここでも、組織液と同じように、体にとって必要な栄養分と老廃物が混在が生起しています。
そして、やはり血しょうもリンパ液も、その組成は組織液と同じ。

命を維持するために必要なエネルギー。
それを作るために、細胞たちが行う代謝という仕事。
その結果、必然的に生じる老廃物。

栄養分と老廃物が、渾然一体として体液に溶け込み、同じ管の中を全身くまなく流れているのに、きちんとフィルターが働き、行くべきところへ行き、そして排出される生命システム。

体内環境とは、言葉では言い尽くせないほど、精緻な仕事とバランスを実現している環境なのですね。

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